初めに
最初は今年に作ったゲームや新しく触ったゲームエンジンについて書こうと思っていました。しかし深夜にキーボードに向かって今年一年を回顧した所、十数年ぶりにまさかの新刊刊行が叶った「戯言シリーズ」について語らなければならないという謎の使命感に駆られ、急遽内容を変更することにしました。ネタバレは極力避けています。それでは、お付き合い下さい。
戯言シリーズとは
「戯言シリーズ」は2002年から2005年まで刊行された長編小説のことです。「物語シリーズ」等で有名な西尾維新氏のデビュー作品でもあり、西尾氏はこの戯言シリーズの一巻、「クビキリサイクル」によって第23回メフィスト賞を受賞し、小説家としてデビューしました。本編は全9巻で完結した後も番外編で「人間シリーズ」や「最強シリーズ」が創られており、非常に人気の高いシリーズとなっています。西尾維新という作家が人気となったきっかけ、原点とも言えるでしょう。二十年を経た現在でも尚一線で活躍している西尾維新氏の作品を購読している、という人は一度手に取ってみては如何でしょうか?
また、第一巻の「クビキリサイクル」はOVA化もされています。原作の異質で引き込まれる世界観を見事に映像化している作品なので、普段小説を読まないという方には是非OVAの方をご覧頂きたいところです。
あらすじ
基本的に主人公であり語り部である「いーちゃん」が特異な事件に巻き込まれて、その事件を主人公が収束させる(解決とは言えない形でも、一先ずは終わらせる)物語です。勿論謎解き要素がありますが、後半からはバトル要素が多分に盛られます。(というか、外伝作品は最早異能力バトル物がメイン)
戯言シリーズの魅力
個人的に戯言シリーズの魅力だと感じる点を三つ、まとめてみました。
- 魅力的なキャラクター
- 予想の出来ない展開
- 少年漫画的な熱さ
以下、この三つの点について解説します。
魅力的なキャラクター
これは西尾維新氏の作品全体に言える事ですが、どの作品にも他の作品には見られない、独特なキャラクターが登場します。西尾氏の原点である戯言シリーズも例外ではなく、それどころか西尾市の作品の中で最もぶっ飛んだキャラクターが多数登場するシリーズだと言えます。戯言シリーズを代表するキャラクターを四人紹介します。
- いーちゃん
- 戯言シリーズの主人公であり、語り部です。はい、主人公です。はっきり言って、このシリーズで最も濃いキャラクター性もとい、異常性を有しているのが「いーちゃん」です。西尾氏の作品は一見普通だが実は狂っているという主人公が多いですが、その原型となっている気がします。いーちゃんの異常性を説明するには物語の核心的な部分をネタバレすることになるので省きますが一言で言い表すなら、存在するだけで他者を狂わせる、常人に見せかけた一番の異常者といったところでしょうか。
- 哀川潤
- 投稿者が戯言シリーズの中で、そして全二次元作品の中で最も好きなキャラクターです。その肩書は、「人類最強」。見せかけでも肩透かしでも有名無実でもなく、本当に作中で誰もが認める、頭脳においても体術において強度においても最強のキャラクターです。登場すればあらゆる謎を一瞬で解決し、どんな強敵にも最終的には勝利する。主人公よりも主人公補正を持っている屈指のチートキャラです。あまりにも強キャラなので、比較的出番が少なくなってしまう(もしくは終盤になってしまう)のが個人的に悲しい所です。物語の都合上、致し方なくはありますが。外伝作品「最強シリーズ」の主役でもあります。
- 匂宮出夢
- 作中最強の殺し屋、匂宮兄妹の殺戮を担当する兄です。殺戮奇術集団匂宮雑技団の団員No.18です。このキャラの概要だけで戯言シリーズが異能力バトル物に近づいていくのが分かりますね。西尾氏の作品には作者本人が言及するように、双子キャラ多数登場します。その先駆けですね。殺戮を担当する兄、出夢。頭脳労働を担当する理夢。強さを体現する兄と、弱さを背負う妹。一つの体に二つの人格を共有する、二重人格者の一つの側面です。
- 零崎一賊
- 殺人鬼集団。血の繋がりではなく、流血で繋がっている一族。誰もが殺人衝動を抱える異常な家族。シリーズでも最も忌み嫌われた一団です。どうしてこれだけ個人ではなく集団を挙げたのか?零崎一賊が揃いも揃ってクセが強く、一人をピックアップ出来なかったからですね。顔面の半分がタトゥーで覆われていたり、ロリコンだったりシスコンだったり、属性過多な集団です。外伝作品「人間シリーズ」の主役でもあります。
予想の出来ない展開
本シリーズはミステリー小説(諸説はありますが)なので、所々に謎、つまり伏線が散りばめられ、終盤で真相(誰が犯人なのか、トリックは何なのか)を提示される形式が殆どです。この形式において秀逸なのは、伏線がそれ程目立って作中で描かれている訳でなく、後から伏線だと気付くことが多いという点です。読んでいる時は伏線だとは意識せず読み流し、しかしどこか描写に違和感を覚えて頭の片隅には残る。その伏線が後から回収されれば、「あれが伏線だったのか!」と単に為される伏線回収よりもさらに衝撃とカタルシスを感じる事が出来ます。西尾氏はそのような描写が特に得意な作家ではありますが、戯言シリーズはその作者の良さが前面に押し出されています。
有名な伏線回収ではシリーズ第二巻、「クビシメロマンチスト」が挙げられます。クビシメロマンチストはファンの間では西尾氏の最高傑作とも言われている作品で、西尾氏自身もこの作品でファンが増えたと発言している(意訳)など、その影響力が伺えると思います。私も戯言シリーズに付いて行こうと思った契機となる作品なので、是非一度手に取ってみてください。
少年漫画的な熱さ
西尾氏の作品は比較的王道な展開が多いです。物語シリーズなどを読了している方の中には、そう言われて疑問に感じる方もいるかもしれませんが、物語シリーズも本質的には王道な展開となっています。王道で、ある意味では陳腐と言えてしまう展開を歪な視点、特異なキャラクター、独特な世界観を通すことで今までに見られない新たなエンタメとして昇華されている、それが西尾氏の作品の面白さの根底にあると投稿者は個人的に思っています。
そして、戯言シリーズの根幹にある王道展開とは、少年漫画的な熱い展開であると、投稿者は考えます。これは西尾氏が漫画好きで、特にジョジョの奇妙な冒険の愛好家であることが背景にあるのではないかと推測できますが、ともかく歪なフィルターに覆われたその中身は熱い少年漫画的な要素で構成されています。主人公の挫折。そこからの仲間の声掛けによる奮起。成長。要素だけ取り出せば正に少年漫画的と言えるでしょう。ちなみに、その形式が最も色濃く出ているのが「ヒトクイマジカル」。投稿者が最も好きな巻です。
また、同じような作品として、松井優征先生原作の漫画、「暗殺教室」が挙げられます。この作品も多感な時期であり悩みが多くある中学生という、少年漫画のメインターゲット層と同じ年齢、境遇の登場人物たちの成長が根幹のストーリーとなっています。しかしそのような王道な展開を「暗殺」という衝撃的な要素、フィルターを通すことでこれまでにない面白さを生み出した訳です。
このような作品形式は言い換えれば、多くの人が楽しめる土壌があるという意味にもなります。作者の歪な視点から描かれる王道ストーリー。興味のある方は是非読んでみて欲しいところですね。
10年振りの新刊
さて、ここまで戯言シリーズについて語ってきましたが、これから書くことが本題です。先述のように西尾維新氏は2002年にデビューしました。つまり、2022、2023年は西尾氏がデビューして二十周年の節目となる訳です。この二十周年を記念して、およそ18年ぶりに発売されたのが「戯言シリーズ」の正統続編、「キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘」です。まさか十年以上時を経た現代で戯言シリーズと出会えるとは思いもよらず、PVが発表された時には発狂しましたね。2023年に入ってから早々に今年一番の衝撃を味わわされました。
新作の主人公
新作の主人公は玖渚盾と言います。いーちゃんの娘。つまり前作主人公の娘です。PVでのキャラクターボイスは悠木碧さん。前作のヒロイン、青色サヴァンの肩書を持つ「玖渚友」を担当していた方と同じ声優さんが声を当てています。
新作主人公の名前の由来は主人公とヒロイン二人の恩人である哀川潤から取られています。ちなみに、哀川潤も作中に登場しています。
令和の世にチューニングされた戯言シリーズ
今作の特徴は何といっても、しっかりとした「戯言シリーズ」であり、かつ西尾維新先生の最新刊ということです。どういう意味かと言うと、十年以上前の「戯言シリーズ」を思い起こす描写や展開が多分に盛り込まれているに拘わらず、平成の作品であった本シリーズが令和の作品としてきちんと整えられているということです。正に、「令和の世にチューニングされた戯言シリーズ」と言えるでしょう。
父から娘への世代交代。シリーズを通して変わらないもの。変えられないもの。変わるもの。変わらざるを得ないもの。十年以上の歳月で何を得たのか。何が失われたのか。西尾維新氏のこれまでの集大成が詰まっている作品、と個人的に総括しています。ノスタルジーすら感じる今作は、過去に「戯言シリーズ」を見ていた読者にこそ、全員に読んで頂きたいところです。
最後に
語れと言われれば幾らでも、それこそ全巻分の内容をネタバレ込みで語り尽せるのですが、流石にそこまで書くと自己満足が行き過ぎるので、この辺で筆を置かせて貰います。この記事を見て少しでも「戯言シリーズ」に興味を持って頂けたら、そして過去に「戯言シリーズ」を読んでいた方々が、続編「キドナプキディング」を手に取って頂けたら、こんなに嬉しいことはありません。